快速急行
ほころび始める花と、
皿のような三日月と、
化学物質の甘い香り。
ここを抜け出したいなら、
相応の覚悟が必要だよ。
今飛び乗ったその列車が、
目的地で停車するとは限らないから。
「もう全部なかったことにしたい」
そんな話を聴きながら、
私は昔食べたボンゴレのことを思い出していた。
そう、ボンゴレだったな。夕飯は。
結構頑張って食べたんだ。
全然食欲なんて無かったけど、
平静装って、半分までは詰め込んだんだ。
誰にも気づかれたくなかった。恐ろしいくらい自制が利いた。
あの頃強かったな。強かったのかな。ただの意地かな。
無理矢理フォークを口に運ぶ自分の姿を微笑ましく思う。
そしてそんな風に思われていることなど露ほども知らない、
あの頃の私がまだボンゴレを口に運んでいる。平気な顔して。
私の隣に居る人は、
街中で、よく子供に見つめられる。
抱っこしてるお母さんの肩越しから、とか、
ベビーカーから身を乗り出して、とか、
とにかくじっと、時間が止まったように、彼を見る。
そして今日はついに、犬にまで見つめられた。
「なぜなんだろうね」 心当たりはないらしいのだけれど。
でも何となく、わかるような気がするよ。
私も何故か、じっと見たくなっちゃうんだもの。
買った本を、
袋に入れたままにしておくなんて不幸だ。
本当はこのまま寝ないで、
一晩じっくり向き合いたい。
そんな贅沢な時間を、
今にきっと再び手に入れる。それまで待ってて。
美しすぎて、
もう何も言えない。
言わない方がきっと良い。
もう、何もしなくて良いんじゃないかって、
これがあるならもう充分じゃないかって、
何もする気が起きない。呼吸すら控えたい。
余りにも美しい。君はしなやかな仕草で、
僕の虚栄心を、それは見事に剥ぎ取っていく。
他人が何を欲しがっているのか、
考えるのがとても難しい。
考えてわかるものでもないし。
他人の心に擦り寄るのは、物凄く根気のいることで。
人一倍面倒臭がりな私は、疲れ果ててそれを放棄してしまう。
「気負いすぎだよ」
うん、そうかもしれない。きっと簡単なことなのに。
気負いすぎて面倒になって、結局止めてしまったりして。
だけど本当は私、ただ物凄く、貴方に喜んでほしいのです。
ただひたすら闇雲に走って、
結局何も実らなかったのだ、と思っていたけど。
何の役にも立たないロクデナシ、
などと罵っていたのだけど。
何も手に入らなかった、わけじゃなかった。
この手で残したものが確かにある。
誰一人欲しがらないけど、
私は、それが欲しかったんだもの。
君の言うことは、
僕が昔よく見た夢と何処か似ているよ。
途方もなく馬鹿げていて。
時に恐ろしいほど現実的で。
ある日、空から真っ逆様に堕ちて背中を打った。
その時の痕が、ほら
今も消えずに残っているんだ。
昨日は、金木犀のお茶。
今日は、桜のお茶。
花の香りで少しだけ思い出しそうになるけど、
思わず何かを言ってしまいたくなるけど、
その後どんな顔をするか、もうわかってしまっているから。
このまま、一息に飲み干してしまえ。
別に飢えてるわけじゃないけど、
何となく口寂しいから、何でもかんでも放り込むよ。
甘い砂糖菓子から、スパイシーなカクテルまで、
フルコースにジャンクフード、懐石料理、
パスタに駄菓子にカフェ・マキアート、
手当たり次第に詰め込んだら、ひたすら頭を
振る、振る、振る、振る、振る、振る、振る、
訳が分からなくなるくらい、だって、
訳分からなくなりたいから。
誰かの話で、泣いたりするのは傲慢だ。
その痛みの1/10も知らないのに、
解ったような顔をして泣いたりするのは、
何か違う、気がして、嫌だ。
彼女が何を思ってその歌を歌っているのか、私は知らない。
だから私は泣いてはいけない。のに、
排出しない分、体内に蓄積されて、余計に離れない。
彼女は何故歌うのだろう。私は何故こんなに憂鬱なのだろう。
そのどちらも私は知らない。所詮、知る由もないのだ。
「壊すのは簡単だよ」
誰かがそう言った。
一瞬で終わるから、って。
そうかな。私には難しいよ。
お皿一枚割っただけで、とてつもない罪悪感に苛まれる。
大抵のものは黙っていても壊れてしまうから、
出来るだけ壊れていかないように、大切に扱うよ。
腫れ物に触るような日常。
それでも壊れていってしまったもの達のことを、
ときどき、ぼんやり考えてみる。
使わないうちに割ってしまったティーカップの欠片を、
まだ捨てられずにいるように。
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